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「兄は、テニアンから帰ってから一度も心を開いてくれませんでした。家の周りにスクラップを重ね、まるでジャングルのようにしていました。そうしたのはいまでもテニアンの洞穴の中に隠れていたんだと思います。兄の心はずっとテニアン島の洞穴から抜け出せないでいたんです」
「テニアンから戻り、一度だけお兄さんから書状が届きました。それがこの店の保証人の件でした。やっと過去の呪縛から解かれて第二の人生を歩み始めてくれると安堵していました。その書状と同封された一枚に、あなたのことに触れていました。万が一自分に何かあったら、一時の慰めをお願いしますと記してありました。その慰めに値するかどうか、納めていただければ私も救われる」
佐々木はテーブルに手を付いて頭を下げた。
「お葬式には出てください。私一人ですけど」
「ありがとうございます」
葬儀場と時間をメモして立ち上がった。
「葬儀場でお別れが出来ないかもしれない。何としてもあなたに幸せになって欲しい。失礼します」
ママがドアの外まで見送った。佐々木は歩き出すと踵に軽い痛みを感じた、緩い長靴で靴擦れが出来たのだ。
鶴見仲通りのGNマンションに張り付いている二人の男がいる。米沢東西署の刑事高橋と同じく鑑識課長の鈴木である。名城が勤めている八百屋には伊勢佐木中央署の横田刑事が見張っている。高橋と鈴木は名城の出勤後近くの喫茶店に入り横田から名城の様子確認電話を待っている。
「出勤しました。このまま待機します」
「頼む、おらだは個人タクスー探ってみる。二時間後さ電話欲すい」
「了解しました」
丸二日付き合っていると山形弁も気にならなくなった。高橋は布川刑事が職質した個人タクシーの経営者宅を訪ねる。全くホシの当てが掴めないでいた。しかし名城が絡んでいるのは間違いないと睨んでいた。名城から崩していくしかない現状に業を煮やしていた。
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