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「背は低いげんども重いな。何キロあんだ、ビールばり飲んでっからだべ。日本酒さ替えろ」
「つべごべ言わねでさっさど立ぢ上がれ」
高橋は膝を庇いながらゆっくり立ち上がる。隣の夫人が洗濯物を取り込みだして高橋を睨んでいる。
「こんにぢは、こいづが鍵無ぐすたもんで仕方なぐで、はい」
主婦はあまり関心がない。パタパタとワイシャツを叩いて取り込んでいる。鈴木は手摺に摑まりベランダに着地した。手を合わせ鍵が開いていることを祈った。しっかり閉まっていた。空の植木橋で何度か叩いた。ガラスが割れたので手を挿し込んで鍵を上げた。
「よす、玄関さ回れ」
高橋に合図した。ここまで鈴木が拘るのはパイン缶の存在だった。
「どうもだ」
高橋は隣の夫人に会釈した。鈴木の靴を持って二階に上がる。鈴木は部屋に上がるなり冷蔵庫を開けた。ない。パイン缶だけ二缶が消えている。ごみ箱を見た。ビール缶以外に空き缶はない。高橋がノックする。鈴木が鍵を開ける。
「どうだ?」
「ね。パイン缶がね。空ぎ缶もね」
「よぐたねでみろ。おらは下のごみ箱見でくる」
高橋は階段を駆け下りた。ごみ置き場のスペースにはいくつもの袋に入れられたごみが置いてある。ごみの種類を分けた間仕切りはないが缶瓶と札がぶら下がる辺りを探す。ひとつずつ袋を持ち上げてそれらしき缶を探る。袋から汁が垂れて革靴を濡らした。
「汚え、ちぎしょう、ふざげやがって」
全ての袋を調べたがパイン缶は見当たらない。高橋は階段を駆け上がった。
「ごみ置ぎ場には無え」
「こごさも無え」
「おめの勘的中だな」
「よす、名城押さえんべ」
二人はタクシーを捕まえた。
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