都橋探偵事情『舎利』

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「八百十本店」 「お客さん、歩いても10分だよ。一方通行路だから歩きと大して変わらないよ」 「路分がらね、それに急ぐ」  警察手帳を差し出した。すぐに発車した。警察の急ぎならと運転手は安心してスピードオーバーで走った。自動ドアが開く前に鈴木が飛び降りた。 「名城は?」 「それが自転車で使いに行ったきり戻ってきません。もう20分になります」 「店には他さ誰がいねのが?」 「おばさんが客の対応をしています」 「よす聞いでごい」 「身分を明かしてもいいんですか?」 「構わね、指名手配する」  横田は接客で忙しく立ち回る八百屋の夫人に声を掛けた。 「いらっしゃい、何でしょう?」  他の客に悟られぬよう手帳を見せた。 「名城さんはどこに行かれましたか?」 「豊君はどこに行ったのかしら、一番忙しい時間帯にねえ。こっちが訊きたい」 「注文出前ではありませんか?」 「出前は午前で終わり、こんなことないのよ」  横田は二人と合流した。 「出前は午前で終了だそうです。夫人も名城の行方に心当たりがありません」 「逃げられだな」  高橋が横田を見て言った。横田は張り込みを感付かれたと疑われている。 「あっ」  店で缶詰の有無を確認する際に見られたのかもしれないと思った。
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