都橋探偵事情『舎利』

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「どうした?」 「中西さん、お帰りなさい」 「社交辞令はいいから用件を言え」 「はい、名城豊が逃亡しました。私が張り込みに感付かれたようです。すいません」  横田は一喝喰らうと覚悟した。 「それから?」 「はい、布川さんが職質をした個人タクシーの運転手が関係している模様だと米沢東西署の高橋刑事の見立てです。そのタクシーは今夜横浜西口で予約客を乗せると夫人から裏が取れています。それで車が欲しいんですけど中西さん来てくれませんか?」 「よし分かった。沖縄からの客人を乗せてから西口に向かう。敵も用心している。まとまるな、散らばって張り込むようにな」  横田が米沢東西署の二人に伝えた。 「それから、名城のマンションの冷蔵庫に有ったパイナップルの缶詰が二缶消えています。鈴木さんはそれが怪しいと言っています」 「パイン缶?臭うな。デニス加藤はクラブ経営の他に建設や缶詰工場を経営している。手榴弾は濡れても問題ない。沖縄は既に国内線だ。パイン缶なら土産として素通りだ。よし横田、米沢の二人に笑われるから二度とドジ踏むなよ」  最後に一喝された。 「よし、俺は電車で移動して張り込もう。唯一タクシー運転手の顔を拝んだのは俺一人だからな」  布川が協力を約束した。中西は羽田に走らせた。渡嘉敷が到着ロビーに出て来たのは22:00.を回ったばかりだった。中西が走り寄る。 「西、出迎えありがとう」 「何、お返しだ」  二人は車に乗り込んだ。渡嘉敷がルームライトを点けて写真の束を出した。
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