都橋探偵事情『舎利』

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「5人の指紋を持ち出して来た。名城豊の指紋が欲しい」 「分かった、ちょっと待て」  中西は車を停めて公衆電話に入った。 「布川さんはもう出ちゃいましたか?そうですか変わって下さい」 「俺だ」 「布川さん、西口行く前に鶴見の横田と落ち合って名城豊の指紋を採取して欲しいんですが」 「分かった、マンションの鍵は開いているからそれらしきものを摘まんで持ち出す」  布川は横浜西口に急いだ。  毛糸の帽子にマフラー姿の男が横浜の安ホテルに入った。 「すいませんが黒木良助さんに取り次いで欲しいんですが?」 「はい、失礼ですけどどちら様でしょうか?」 「金城と申します。金城孝です」  フロントは黒木に電話を入れた。 「お客様がお見えです。金城孝様です。はい、分かりました」  電話を切る。 「302号室お部屋でお待ちしておられます」 「ありがとう」  金城の名を語ったのは小川である。金城が電話で黒木の教え子に連絡し、更に教え子が黒木宅に電話を入れ、黒木の滞在先を聞き付けた。金城は温厚な性格でテニアンの小学校でも黒木に可愛がられていた。小川と知り合わなければ復讐のことなど考えにも及ばない、そんな気の優しい子であった。小川はノックした。ドアが開いた。 「小川」  黒木の顔から血の気が引いた。 「黒木先生、黙って見ていてくれれば良かったのに。どうして探偵になんか頼んだんですか?」  小川が中に入りドアを閉めた。
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