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鶴見の仲通りから自転車で横浜の西口まで来た。タクシー乗り場に金城の車が並んでいる。名城は自転車を止めて金城の車に近付いた。
「俺だ、開けろ」
乗り込んだ。
「早く出せ」
乗り場から外れてロータリーを回り鶴屋町の立体駐車場に乗り入れた。
「一番上まで上がれ」
名城の指示通り最上階に上がった。
「どうした名城?」
「予想通り八百屋をマークされていた。お前の車も同じだ」
「どうしたらいいんだ」
「走り続けろ。無線で女房と連絡を取って客が長距離だと言え」
「いつまで?」
「佐々木の殺害ニュースが流れるまでだ。恐らく二日」
「どうして二日なんだ?」
「もう時間がないからさ。小川はやるさ。やって死ぬ」
「分かった。これはどうする?」
助手席の足元に置いてある紙袋を持ち上げた。
「俺が渡す。俺は近いうちに捕まるだろう。小川みたいに死ぬ根性もない。お前との関係は友達で、俺達に頼まれたとそれで通すんだ、いいな」
「名城、お前どこに逃げるんだ?」
「逃げるとこなんてないさ。逃げなきゃならないのは佐々木達で俺達じゃないはずだろ。そうだろう金城?この計画を小川から聞かされた時に当たり前の復讐だと誓ったよな。それがどうして俺達が追われる羽目になるんだ。小川にはなんとしても佐々木を討ち取って欲しい。そうじゃなきゃ、テニアンの洞穴で死を命令された俺達の家族は報われない。そうだろう金城」
金城は曖昧に頷いた。妻や子供の顔が浮かんだ。自分の身に降りかかる今後を考えると計画を中止してもいいと気持ちが緩んでいた。名城においてもそうである。金城が復讐に燃えていることが自分自身を奮い立たせるエネルギーである。金城の心が揺らいでいてはその自信が崩壊する。名城は紙袋を掴んで車から降りた。金城とガラス越しに目があった。名城と別れて10分後に無線で自宅に連絡を入れた。
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