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「お客様」
フロントの男は驚いて徳田を見つめた。
「泊まれるかな?」
「はい。ですが先日警察の方がお客様を捜しておられました。また利用されたら一報するようにとのことです」
米沢東西署はまだ徳田を容疑者の候補に上げている。それも上から数えた方が早い。
「あれから警察は私のことで訪ねて来たかね?」
「いえ、一度も」
「疑いは晴れているから迷惑は掛けない。明日警察に行くことになっています。それじゃなきゃこのホテルに戻りはしないでしょ。夕方に約束をしています。疑われるような様子がいけないのかもしれないが」
徳田はジョークに交えてフロントの男を和ませた。
「左様でございましたか、お部屋はすぐにご用意いたします」
「ところで、先日置いていった長靴はまだ処分されていないかな、そうであれば明日履きたいんだが、米沢の冬は長靴必須だね」
「お客様、申し訳ありません、実は昨日お客様が見えまして長靴を購入される旨をお聞きしました。当ホテルはお客様が短期利用で置いて行かれた長靴のストックがたくさんあります。そのお客様にお貸ししてございます。他をご用意させていただきます」
徳田が置いて行った長靴は偶然にも佐々木が履いている。
「ああ構わない。東京からのお客さんかな?」
「はい、横浜でございます」
「もしかして佐々木、佐々木幹夫さんじゃないかな?」
徳田はカマを掛けた。佐々木は昨日から米沢に来ていると読んでいる。斎藤嗣治の葬儀に参列するかもしれない。米沢に来てぷらっと寄った店でホテルを紹介してもらううと大概このホテルを案内する。佐々木である可能性もある。
「お知り合いでございますか?」
大当たりである。
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