66人が本棚に入れています
本棚に追加
「ええ、そうですか、既に米沢に到着されていましたか。それは良かった」
徳田はとぼけた。
「前と同じ部屋で宜しいでしょうか?」
「お願いします」
フロントの男に先導され部屋に入る。廊下で愛想のないフロントの女と擦れ違う。
「またよろしくね」
女は表情を変えずに頷いた。徳田は部屋に入るなり受話器を上げた。
「外線をお願いしたい」
佐々木幹夫の自宅に電話を入れた。
「もしもし」
娘恵美子の不安そうな声が受話器から流れる。
「都橋興信所の徳田です。お父さんの居場所を掴みました」
「すぐに行きます」
「もう今からでは無理です。明日一番の東北本線で来てください。夕方には到着するでしょう」
「分かりました」
徳田はホテルの情報を伝えた。
「お嬢さん、辛いだろうけど電話はなさらない方がいい。あなたに何も告げないで出て行ったのはあなたに居所を悟られたくないからです。私が張っていますからご心配なさらないように。米沢に着いたらこのホテルにチェックインしてください。ああそうそう、米沢駅に着いたら長靴を購入した方がいい」
電話を切った。徳田は外に出た。11:15.ほとんどの店が閉まっている。斎藤の妹が勤めるパブはまだ営業している。散々嘘を吐いて情報を入手した都合上、店内に入るのはうまくない。徳田は店が退けるのを待った。最後の客がママ他ホステス総出で見送られた。そのうちの三人が客と同じタクシーに乗り込んだ。『キャッキャ』と黄色い声が零度の凍った夜に罅を入れる。その中に斎藤の妹はいない。着替えて出てくるのを待った。徳田は店の近くまで忍び寄る。隣とのビルの隙間に挟まった。通りからは暗くて隙間は見えない。
最初のコメントを投稿しよう!