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「もしもし、フロント?302に至急繋いで欲しい」
「深夜です。お電話に出られませんが、お休みになられていると思います」
「親族の一大事と伝えてください、私の名は徳田、徳田英二と申します」
「かしこまりました」
徳田は胸騒ぎがした。深夜だろうが早朝だろうが黒木が熟睡することはないだろうと予想していた。不安が浅い眠りに誘うが電話の音で跳び起きるはずである。
「やはりお出になりません。先ほどお客様がお見えになられてお部屋で会われていました。そのお客様が帰る際に黒木様は明日ゆっくりしたいから掃除は不要と伝言をいただきました」
「それは何時頃ですか?」
「22:00.を回った頃です」
徳田は礼も言わずに電話を切った。そして伊勢佐木中央署に電話を入れる。
「中西刑事か布川刑事をお願いしたい」
愛想のない言い方に当直は癪に障った。
「その前にあんたは誰ですか?」
「納税者だ、いるのかないのか?」
当直は受話器を爪で引っ搔いた。歯が浮くような音に徳田は耳を離した。
「はい、いたずら電話じゃないよね?」
中西が渡嘉敷と戻って来たばかりだった。
「英二だろ、忙しい、後で電話する」
当直から嫌な感じのする男と訊いてすぐに徳田と分かり笑った。これから指紋の照合をするので徳田に構っていられない。すぐに電話を切った。
布川が鶴見仲通りのNGマンションに到着すると横田が待っていた。
「開いているのか?」
「はい」
「名城は開けっ放しで出掛けたのか?」
「多分」
米沢東西署の二人が裏から上がりガラスを破り侵入したとは明かさなかった。布川は手袋をしてドアを開けた。そして指紋がべったりついていそうな物を探した。
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