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「分かる方の住所と電話番号を教えてください」
黒木は予め用意しておいた便箋を差し出した。
「予想していたので。小川と関わった方々の連絡先です。結婚して苗字の変わった方もいます」
「カッコ内が旧姓ですね?」
徳田はラークの盗聴器で録音している。メモではあやふやなニュアンスが読めない。嘘か真実か声は正直である。急な嘘は声が裏返る。嘘の上塗りをするから表現が雑になる。その辺りを再生して確かめる。徳田の勘働きは群を抜いている。それもいざと言うときの勘は素晴らしい。その裏もあり外れると振出しに戻る。
「他に何かありませんか?些細なことでいいんです」
「今のところはそれぐらいです」
徳田は都橋側階段まで見送った。
「宮崎にはいつお帰りですか?」
「どうして私が宮崎だと?」
「黒木性は宮崎県人が多い。探偵のイロハです」
「さっきも言ったように正月には帰りたい」
「努力しますよ。宿に電話しますから夜中でも明け方でもいいので折り返し電話をください」
コンコンと革靴が鉄製の階段を叩く。階段下の交番の立番が敬礼した。
横浜駅西口で客待ちをしている。
「どちらまで?」
「山下町の産業貿易センタービルまでお願いします」
今年11月にオープンしたばかりのビルである。個人タクシーに乗り込んだのは佐々木幹夫54歳である。運転手は金城孝である。都橋興信所に訪れた依頼人黒木良助が捜している小川誠二の関係者である。金城はバックミラーで男を見つめていた。目が合うと反らす繰り返しをいている。
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