都橋探偵事情『舎利』

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「おい、順番守れよ順番、この百姓が」  酔った男がせせら笑う。高橋が動き出すのを鈴木が押さえた。 「なんだ、文句あるなら出るとこ出るぞ、おばあちゃんの綿入れ半纏は温かそうだね。ドカチンが出稼ぎ終えてこれから帰郷かな」  高橋は自分は罵られてもいいが鈴木の悪口には我慢がならない。鈴木の腕から逃れた。男に詰め寄る。腕を捩じ上げて手錠を掛けた。 「名誉棄損の現行犯で逮捕する」  男の周りにいた客が拍手した。そこへ布川が合流する。 「どうしました?」 「酔って騒いでだがらお仕置ぎすた」 「そうですか、そりゃ良かった」  西口交番の警官が二人出て来た。布川が手帳を見せると敬礼した。 「酔って暴言を吐いていた。少し交番で休ませてやってくれ」  高橋が手錠を外すと警官に両手を抱えられ交番に向かった。 「逃げられだ、まさが30台も前で乗り込むどは思わねがった。申す訳ね」  高橋は布川に詫びた。 「仕方ありませんよ、敵の動きが分かるなら苦労しません」  高橋は頭を掻いて悔しがった。  横田が戻って来た。 「中西さん、これが名城の指紋です」  渡嘉敷が五人の指紋写真をテーブルに並べた。鑑識が名城の指紋と見比べる。 「これと一致しますね」  鑑識が断定した。 「間違いない?」 「間違いありません」 「この指紋は引鉄を握っていない、銃口から出た指紋です」  渡嘉敷が言った。 「と言うことは名城は殺人犯ではない。しかしこの銃の受け渡しに関係していると言うことだな」  中西の言葉に渡嘉敷が相槌を打った。
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