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「分かった。結論からすれば手榴弾が実行犯に渡った。ならばこれまでの経緯はもう必要ない。どうですか高橋さん?」
布川が先手を講じるよう高橋を誘った。
「そうだ佐々木だ、山手の佐々木宅に娘がいる。班長俺行って来ます」
中西と渡嘉敷は割り込みしてタクシーに乗り込んだ。
「もう彼等はここには戻って来ないでしょう。幸町のホテルに行ってみましょうか、何か掴めるかもしれない」
布川に同意して車に乗り込んだ。ホテルは閉鎖されていた。鑑識課はまだ到着していない。黒木がベッドに横たわっている。米沢の二人が仏に手を合わせた。鈴木は綿入れ半纏の内ポケットから鑑識用の手袋をはめた。
「鈴木さん以外は触れないようにお願いします」
布川が注意した。机の引き出しから一冊のノートを出した。テニアンの悲劇とタイトルがあり、日記が綴られていた。佐々木幹夫、斎藤嗣治の名が記されている。次のページには名前が列挙されて、金城孝、名城豊、小川誠二の三名に赤丸が記されている。小川には二重丸である。
「これ、金城孝、名城豊、それにこの小川誠二とは何者でしょう」
横田が覗き込んで訊いた。
「それが分がれば苦労すね」
高橋に一蹴された。
「あった、保険証だ」
鈴木が背広の内ポケットから財布を出して中身をテーブルに並べた。
「宮崎の児湯郡だ、横田、署に電話して当局に照会するよう手配しろ」
布川に指示されフロントに向かう。
「お電話です、中西様からです。こちらに繋ぎましょうか?」
フロント係が伝えに来た。
「もしもし、佐々木の娘は家にいません。会社にも寄りましたがやはりいません。警備員が23:11分に車で出て行くのを確認しています。娘は米沢に向かったと思います」
「なぜ言い切れる?誤れば混乱するぞ」
布川に根拠を糺された。中西は徳田の存在を明らかにしたくない。わざわざ署に電話して中西に明かしたのはそう言うことである。
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