都橋探偵事情『舎利』

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「米沢で斎藤の妹たぶらがすて佐々木の情報仕入れでだ男んねだべが。米沢駅で張り込んだが狡賢い奴で南米沢駅がら新潟経由で逃亡すた。探偵らすいやり口だ。中肉中背、黒のソフト被り黒のコート着でだど妹言ってだ」  布川は高橋の言う背格好や服装の様子からして徳田であると確信した。 「布川班長、お世話になった。我等は米沢さ戻るっす」  高橋が布川に礼を言った。 「横田君、色々ど助げでけでどうも。今度米沢さ遊びにいらっしゃい、仕事抜ぎで案内する」  鈴木が手を差し出した。横田がぎゅっと握り締めた。 「ご両人、手段は?」 「タクスーで行ぐべ。税金の有効利用だ」  タクシーに乗り込む二人を見送った。  上野駅のタクシー乗り場で考えている。始発まで待つかそれともタクシーを飛ばすか。毛糸の帽子にマフラーを鼻まで巻いている。 「運転手さん、10万円渡すから米沢駅に向かって走ってくれないかな。10万円分走ったらそこで降ろしてくれていい」  小川はタクシーに乗り込んで10万を渡した。運転手は頷いて走り出した。無口な運転手で救われた。 「少し眠ります。起こしてください」  言ったと同時に目を瞑る。目は疲れているが脳が冴えて眠りに付けない。無理に目を瞑ると瞼がぴくぴくと動いて気持ち悪い。諦めて車窓を眺めている。テニアン島での復讐をするために人殺しとなった。もう自分が犯人と特定されるのは時間の問題だろう。沖縄では名城の伯父と武器売買のブローカー併せて三人を撃ち殺した。横浜では恩師である黒木を絞殺した。そこまでしてもやり遂げなければならない。それは不条理である。どうして佐々木と斎藤は玉砕しなかったのだろうか。玉砕していればこんな復讐心は芽生えなかった。 『佐々木少尉殿が赤ん坊を黙らせろとの命令だ』 『はい、すんません』 『泣き止まなければ殺す。どうせ捕虜になれば米兵に惨殺される』 『母ちゃん』 『お前は生きるんだよ』  壕の奥で爆音と共に母と弟は木っ端みじんとなった。翌日焼いて骨を砕いた。お守り袋に骨を入れてずっと復讐を誓った。小川はマフラーを外して胸のお守り袋を握る。『あんちゃんに力を与えてくれ』 「何か言いました?」  心で祈ったつもりが声に出ていた。        
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