66人が本棚に入れています
本棚に追加
「すいません、寝言です。もう福島に入りましたか?」
「もう郡山を過ぎました。お客さん、深夜料金だけど何とか米沢駅まで行けますよ」
タクシーは山形に入った。小雪がちらついている。
「お客さん、チェーン付けさせてください」
運転手は路肩に車を寄せた。小川は車から降りて伸びをした。煙草を吸い込んだ。粉雪の間を煙が擦り抜ける。米沢に到着してからの行動を確認する。斎藤の妹に接触する。騒げば殺す。佐々木が現れるのを待つ。その場で佐々木を殺す。そして自分も死ぬ。単純な行動計画を鼻で笑った。
「お待たせしました」
運転手が軍手を外してエンジンを掛けた。
大晦日も雪が止むことはない。元旦に掛けて降り積もるとの予報である。徳田は朝早くからロビー待合室で新聞を読んでいた。エレベーターと階段の両方が見える位置に座っている。見覚えのある長靴を履いた初老の男を張り込んでいる。それが佐々木幹夫である。昨夜電話した佐々木の娘も車で出掛けたならどんなに安全運転でももうボチボチ米沢に到着する時刻である。ここで親子を鉢合わせてはいけない。徳田は出入口も見張っている。白のコートを来た女がフロントに向けて歩いている。大きな袋を提げている。
「お待ちしておりました」
徳田が部屋までエスコートする。
「父の部屋はどこですか?」
「私も分かりません、ですが間違いなくこのホテルに宿泊しています」
「私、フロントで聞いて来ます」
「待ちなさい、お嬢さん、父上の行方は決まっています。ホテルから出ても必ず行く場所があります。見失うことはありません。それより今あなたが父上に会ったなら、それこそもう戻らないかもしれない」
「どうしてそんなことが言えるの?」
恵美子は父親を見付けたら二度と離さない覚悟でいる。
最初のコメントを投稿しよう!