都橋探偵事情『舎利』

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 郡山に入り粉雪が激しくなってきた。 「俺、雪を見るの初めてだ」  渡嘉敷は窓を開けて手を出し粉雪を掴んでいる。 「寒いって言うの、閉めてくれよ頼むから」  中西のお願いを笑い飛ばして楽しんでいる。 「西は雪が嫌いか?」 「好き嫌いで考えたことない。ただ寒いのは好きじゃない。頼むから敏閉めてくれ」  渡嘉敷は仕方なく窓を閉めた。 「それよりチェーンだな。この車チェーンなんか積んでねえぞ」  言った矢先にスリップして後部がガードレールに擦った。 「駄目だ、これ以上はチェーンなしじゃ進めない」  中西は車から降りた。 「敏、お前も降りろ、ヒッチハイクだ」  マイクロバスが来たので車道に出て手を振った。 「危ねぇよおめ、スリップしたら轢ぎ殺すとごだったよ」  ドライバーは爺様だった。 「悪いねおじいちゃん、チェーンがなくて走れない。乗っけてってくれないかな。俺は横浜から来た警察で米沢の手榴弾殺人事件で来たんだ」  中西が交渉している間に渡嘉敷は後部座席に座り込んだ。 「おばあちゃん幾つ?俺の母親は72歳」 「おらの方がひとづ上だ」 「そう元気だね」  連れの夫人と渡嘉敷が話し込んでいる。 「あれだもの、乗せねぇわげにはいがねぇべ」  爺様は中西を顎でしゃくった。 「爺さん、ありがとう、さすが山形の人は親切だ」 「おらは福島県人だ」 「ドンマイドンマイ、同じ東北の百姓だ」  悪口だが悪気はない。
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