67人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうだ高橋、葬儀を止めさせるのは、小川を指名手配しよう」
課長が強い口調で言った。
「課長、それは危険だ。爆弾魔外さ放り出すようなもんだ。中西さんの言う通り小川は死ぬ気だ。佐々木討づだめには卑劣も糞も無え。第三者ば人質さ取られだらどうするっす?小川は斎藤嗣治宅で捉えんべぎだ。幸いうずに面すたあの路地は人通りは少ね。葬儀の時間にはほどんど通らね。既さ面子の決まった人質助げるごどに専念するのが賢明だ」
高橋が強い口調で反論した。
「賛成です」
中西が賛同した。
「よし、分かった。四の五の言わない。高橋班長と心中だ。みんな命を粗末にするな」
課長の気合が掛かった。
農家の庭に浸入する。小屋には軽トラックとトラクターがある。梁に鍵がぶら提げてある。干してある野良着を助手席に積んだ。粉のふいた干し柿と雪蓑を荷台の幌の下に詰め込んだ。軽トラックのキーを取って乗り込んだ。裏は国鉄米沢線の線路である。下り列車が行き過ぎるのと同時にセルを回した。暖気が足りない。セルをひいてもう一度キーを捻る。黒煙を吐いて始動した。下り電車が通り過ぎると同時に小屋を出た。明日は元日、それまでには仕事を終えてしまう。この家の主が車がないのに気付く頃は既に地獄に落ちている。夕方五時を回ったばかりだが既に夜の様相を呈している。小川は山間に停めて着替えた。野良着に蓑を付けた。
佐々木は一度ホテルに戻り17:00.にまた出た。徳田はそれを娘の恵美子には知らせていない。
「お父さんはどうしています?」
「心配要りません、必ず連れて帰ります。その時あなたが必要なんです」
死に損ない、途方に暮れる時に娘の存在が助けてくれると信じている。
最初のコメントを投稿しよう!