都橋探偵事情『舎利』

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「この辺の方ですか。葬儀が終えたら改めてお礼に伺います」 「東京からのUターン組です。西米沢の先で親が百姓していますが体調が悪くなり、継ぐ決心をして三年です。礼は要りません、困っている人を少しでも助けられたらと親の病の願掛けみたいなもんです。気にしないでください」  小川は適当に嘘を吐いて凌いだ。 「そうですか、本当にありがとうございます。早くお父さんの病が治りますように。その角で止めてください」  洋子が降りた。小川が荷台から干し柿を出した。 「これ仏壇に、親父が丹精込めて作った干し柿です。甘いですよ」 「ありがとうございます」  洋子は両手が塞がっている。 「首に掛けてください」  頭を下げた。小川は干し柿を洋子の肩に掛けた。細い肩だった。小川は軽トラに戻る時に家の周囲を見渡した。人の気配は感じない。小川は路地で車を停めてパイン缶を出した。缶切りで蓋を切り落とす。窓を開けて汁を溢す。ガサっとビニール袋に包まれたレモンが出て来た。二缶開けてレモンを野良着のポケットに仕舞った。寒さではなく武者震いがした。  タクシーが止まった。坊主が車から降りた。 「読経は30分、帰りが大変だから待っていて欲しい」  大きな声で運転手に言った。 「分かりました」  坊主は渡嘉敷、タクシー運転手は中西である。  佐々木が斎藤宅に到着した。徳田は離れた位置で確認している。女が佐々木の元に走り寄る。 「お父さん」 「恵美子」  佐々木は驚きのあまり声が詰まってしまった。恵美子は父親の腕を掴んだ。 「どうして私に話してくれなかったの。一人で苦しんでいたなんてお父さん狡い。店を出すときにずっとパートナーだって言ってくれたじゃない。私、お父さんが好きで好きで堪らないの、心配で心配で眠れないの」 「分かった。後で事情は説明する。取り敢えずここから離れなさい。私のホテルで待っていてくれ」  佐々木はルームキーを差し出した。
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