都橋探偵事情『舎利』

172/191
前へ
/191ページ
次へ
「いやよ、もう離れない」  抱き付いた。  徳田は飛び出すかどうか迷っている。  中西も佐々木親子の様子をバックミラーで見ている。 「火の用~心」  大みそか恒例の夜回りが斎藤宅の前を通る。その中に蓑を付けた小川も混じり込んだ。 「ちぎしょう、とんだ誤算だ」  高橋は裏のアパートの一室から夜回りを見ていた。 「班長、路地の角さ軽トラ止まってる。まだエンズンはあったげえ」  佐藤刑事が外周見回りから戻って伝えた。高橋と鈴木は軽トラに駆け寄る。 「なんか甘え匂いがするな」  鈴木鑑識課長が鼻を啜る。佐藤が軽トラの二台で幌を捲り上げる。 「干す柿じゃねか?」 「干す柿じゃね」  鈴木は犬みたいに鼻を鳴らして運転席の前で止まった。懐中電灯を照らし雪を掬い取った。 「パインだ、間違いね」  夜回りの集団に走り寄る。一人の男がさっと玄関に向けて走った。 「私は警察です。驚かないで、いいですか、ホシが現れる可能性が高い。私が逃げろと言ったら隣の部屋に逃げ込んでください。逃げ込んだら畳にうつ伏せになるんです。いいですね」  渡嘉敷の指示に二人は頷いた。 「はんにゃ~は~ら~・・・・」  般若心経が聞こえて来た。渡嘉敷が練習の成果を上げている。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加