都橋探偵事情『舎利』

174/191
前へ
/191ページ
次へ
「お父さん」  徳田が手を緩めた隙に恵美子が走った。 「その子を押さえろ」  徳田の声が高橋に届く前に玄関に走り込んだ。 「お父さん」  恵美子はそのまま葬儀の中に飛び込んだ。 「お父さん」 「恵美子」 「ほほう、これはこれは親子でお出でとは予想もしていなかった。折角だから協力してもらおう」  小川は洋子の首を押さえる腕を手榴弾を握る左手に変えた。そして野良着のポケットからもう一つの手榴弾を出した。 「これを握れ、そのピンを抜くんだ。早くしろ、全員が死ぬぞ。そしてしっかりと握れ、クリップを外すんだ。その握りを解いたら爆発するぞ。大好きなお父さんの横に座れ」 「恵美子、大丈夫だ、手を離さなければ爆発しない」  佐々木も構造はよく理解している。 「さすがだな佐々木少尉殿。そう言うやさしい言葉をテニアンの洞穴で聞きたかった。どれだけの親子がお前の指示で死んでいったことか、まさか忘れたとは言わせない」  読経が止んだ。 「坊主、続けろ」 「はんにゃ~は~ら~」  渡嘉敷は隙を窺っているが難しい。 「軍令だった。捕虜になれば凌辱を受けたあげく殺される運命と知らされていた」
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加