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「お父さん」
徳田が手を緩めた隙に恵美子が走った。
「その子を押さえろ」
徳田の声が高橋に届く前に玄関に走り込んだ。
「お父さん」
恵美子はそのまま葬儀の中に飛び込んだ。
「お父さん」
「恵美子」
「ほほう、これはこれは親子でお出でとは予想もしていなかった。折角だから協力してもらおう」
小川は洋子の首を押さえる腕を手榴弾を握る左手に変えた。そして野良着のポケットからもう一つの手榴弾を出した。
「これを握れ、そのピンを抜くんだ。早くしろ、全員が死ぬぞ。そしてしっかりと握れ、クリップを外すんだ。その握りを解いたら爆発するぞ。大好きなお父さんの横に座れ」
「恵美子、大丈夫だ、手を離さなければ爆発しない」
佐々木も構造はよく理解している。
「さすがだな佐々木少尉殿。そう言うやさしい言葉をテニアンの洞穴で聞きたかった。どれだけの親子がお前の指示で死んでいったことか、まさか忘れたとは言わせない」
読経が止んだ。
「坊主、続けろ」
「はんにゃ~は~ら~」
渡嘉敷は隙を窺っているが難しい。
「軍令だった。捕虜になれば凌辱を受けたあげく殺される運命と知らされていた」
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