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「問題ね、小川塵になった。拾ってけでぐれ」
高橋は小川のことを悪党だが憐れと感じた。
徳田が抱いて泣き合う佐々木親子に寄り添った。
「ありがとうございます。お父さん、この方が私をここまで連れて来てくださったの」
佐々木は徳田の手を握った。
「助けていただきありがとうございます。あなたが身を張って手榴弾を弾いて下さらなければ私達はこうしていられませんでした」
「いえ、私は何もしていません。むしろ逆の考え方でした」
「それはどういうことですか?」
「私の両親は横浜大空襲で死にました。ずっとアメリカを怨んでいました。それより憎いのは戦争とは言え、洞穴の中で起きた惨劇です。どうして同じ日本人同士で争わなければならないのか、そしていつも弱いもん、貧乏人が損をする。始め私は小川にあなたを殺させようと決めていました。小川の死の決意は分かっていました。ですが彼はテニアンで世話になった先生を手に掛けた」
「先生って、黒木君かね」
「ええ、ご存知ないでしょう、昨夜のことですから。それで考えが変わりました。人殺しに敵討ちはさせない。犯罪者として裁かれて欲しかった。佐々木さん、お嬢さんを大切に」
徳田はソフトのクラウンを掴んで左右に揺らした。
斎藤嗣治の兄と妹は手を取り泣いていた。
「洋子、よかったなあ、よかった。お前のことをずっと離さないからな。嗣治はお父ちゃんの墓に入れてやろう」
「お兄ちゃん、ありがとう」
二人は兄の軽トラに乗り帰路に就いた。
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