都橋探偵事情『舎利』

181/191
前へ
/191ページ
次へ
「これ、弾避けの縁起もんだ」  中西が自分のソフトを脱いで渡嘉敷の頭に被せた。大きくて渡嘉敷の瞼まで隠れた。 「こいつはお前が似合う、それに弾避けの縁起もん失くして死んでしまっても横浜まで葬儀に来れないしな」  渡嘉敷は中西の頭にソフトを載せた。 「ありがとう、遊びに行く」 「ああ、いつでも歓迎だ」 「おふくろ大事にしろよ」 「ああ、お前も元気でな」  中西が拳固で渡嘉敷の胸を突いた。渡嘉敷も突き返した。ハグした。  元旦の夕方川崎駅前の電気屋でニュースを観ていた。米沢の手榴弾殺人事件の容疑者が自爆したと報道されている。名城は肩から力が抜けて自転車のハンドルに突っ伏した。小川以外に死傷者はいない。『小川』声に出して唇をかんだ。『俺が佐々木をやる』ハンドルから顔を上げて誓った。どうせ沖縄での伯父や売人の殺人容疑を掛けられるだろう。それならいっそのこと、自分がテニアンの敵を討とう。決意して産業貿易センタービルを目指した。自転車を乗り捨ててタクシーで山下公園まで走らせた。振り袖姿がマリンタワーに列を作っている。エスカレーターを上がると佐々木貿易のドアが閉まっていた。名城は一旦ビルを出て寿のドヤに身を潜ませた。いつかは店を開けるだろう。それまでドヤで準備を整える。  徳田が米沢から戻ったのは正月二日の夕方である。都橋の事務所に戻り佐々木の自宅に電話を入れる。留守電に代わった。佐々木貿易に電話を入れた。 「もしもし、都橋興信所の徳田ですけど。正月早々で申し訳ないが依頼金をいただきたいと思いましてね」 「ああ、徳田さん。どうぞお待ちしております。おいくらになるでしょうか?」 「交通費込みで15万円いただきます。領収証は必要ですか?」
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加