都橋探偵事情『舎利』

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「名城です」  金城は明かして泣き出した。正直で小心な男で小川の強制的な誘いがなければこの事件には絡んでいなかったろうと布川は憐れに感じた。 「君はこの一連の事件で役割はなんだった?」 「佐々木を偶然タクシーに乗せたんです。それで名城と小川に連絡したんです」 「君も佐々木を殺したいと思っていたのかね?」 「はい、俺も家族を手榴弾で亡くしました。小川の復讐心に賛同していました。でも、もし佐々木が謝罪に来ていれば俺は許したでしょう。小川には悪いがもう復讐の気持ちは薄れていました。今の家族を大事することが上回っていました。偶然佐々木に出遭わなければこんなことにならずに済んだかもしれない」  金城は小川から、ことが済んだら全て小川のせいにしろと遺言のように言われていた。それに従ったわけではないが、黒木を殺害したことがショックだった。 「裁判になる、全て正直に言うことだ。執行猶予をもらえるだろう。我々も君の生活を壊したくない」  テニアンでの惨劇を経験した彼等に何の罪があるのだろう。布川はこの正直者を助けてやりたいと願った。 「俺はどうなるんです」 「今夜にでも自首しなさい。ご家族には正直に明かすことを勧める。ここで嘘を吐くとずっと引き摺ることになる。私が伊勢佐木中央署で待っている」  布川はタクシーから降りた。  佐々木貿易のドアは開いている。閉まらないようにドアストッパーが差し込まれている。業務用の台車に商品を積んで地下駐車場に停めてあるクラウンに運び込む。
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