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「お父さん、ウイスキーの瓶を割らない様に気を付けてくださいね」
「ああ、ゆっくり運ぶ」
佐々木はエレベーターに台車を押した。そのエレベーターに乗り込んだ男がいる。Pコートに毛糸の帽子を深く被っている。
「引っ越しですか?それとも玉砕ですか?」
「えっ」
腰の後ろから柳葉包丁を刺した。抜いてまた刺した。
「佐々木少尉は小川の命により玉砕いたしました。以上」
名城はエレベーターから降りて三階を押した。
「あけましておめでとうと言う言葉が余り似合わない年明けになりました」
「あっ徳田さん。本当にありがとうございます。これ用意しておきました」
茶封筒を徳田に差し出した。徳田が封を開けて確認している。
「確かに」
「お父さんからもっと奮発しなさいと言われましたけど徳田さんは嫌がると思いまして請求通りを入れさせていただきました」
全然嫌がらない。しかし表情を変えずにコートの内ポケットに入れた。
「それで佐々木さんは?」
「商品を地下の駐車場に運んでいます。乗用車ですからそんなに詰めなくて何回も往復するんです」
「大変だ。私に出来ることはないかな?」
コートのポケットに手を突っ込んでいる徳田を見て恵美子は笑った。
「大丈夫です」
「それじゃお元気で」
「徳田さんも」
徳田は佐々木貿易を出た。
「きゃー」
エレベーターホールで叫び声が聞こえた。徳田が走り寄る。
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