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「お客さんはこっちの出かね?」
「いや友達がいてね、その友達が死んだ。それを届けに来たんだ」
「小川だね」
「運ちゃんは知ってるの?」
「知らない者はいないさ、ちっちゃな村だ。私はサイパンからの帰還です。八丈から渡った者が多い。小川は家族を失い行き当てのない弟と二人で連れてこられた。面倒見のいい人で小川を高校まで出してくれた。私達民間人はあいつの気持ちは痛いほど分かります。だけど憎む者を間違えた。戦争を憎まなきゃ終わらない。はいあの小さな家ですよ」
家の前まで車で乗り入れられない。二人は路地を入り小川宅の前に立った。中西が横田を顎でしゃくった。
「こんにちは」
横田の透き通る声が八丈の青い空にぴたっと嵌った。出て来たのは小川とひとつ違いの弟である。横田が抱える骨箱をじっと見つめた。
「ありがとうございます」
弟は一礼して受け取った。
「辛いかもしれないが聞かなければならないことがあります」
「さあどうぞ」
二人は誘われるままに中に入る。
「お兄さんの荷物はありませんか?」
「ありません、兄は高校を出てすぐに東京に出ました。それから帰島するのは三年に一度ぐらいでした」
「昨年暮れに戻られましたね?」
「はい、朝来て、翌朝戻りました」
「何か言い残したことはありますか?」
「もし可能ならここに埋めてくれと言っていました。それとこれを置いていきました」
弟は封筒を出した。
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