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「これは何でしょうか?」
「私も見ていませんが札束だと思います」
「失礼」
中西が中を覗いた。札束に間違いない。
「兄が犯罪で仕入れた金かもしれません。調べてください」
小川はたった一人の弟に全財産を置いて行った。
「その必要はありません。それとこれを」
中西はコートのポケットから小川が肌身離さず抱いていたお守り袋を差し出した。弟は受け取り中を開けた。茶箪笥から白い皿を出して袋を逆さにした。コロコロと乾いた音を立て骨の欠片が皿に落ちた。
「母さん、真司」
弟の目に涙が溜まる。
「中西先輩船が出ます」
横田が時計を見て言った。
「港まで送りましょうか?」
「いえ、タクシーを待たせてあります」
二人は表に出て一礼した。
「兄の最後はどうでした?」
「立派でした」
中西が答えた。
佐々木の葬儀は正月六日が通夜、七日が告別式となった。娘の恵美子は母には知らせなかったがニュースで知り駆け付けた。夫婦が分かれても母が娘を想う気持ちに迷いはない。
「お母さん」
「恵美子」
家を出て行った母とは縁を切るつもりでいたが、こうやって駆けつけて胸に抱き寄せられるとその思いはいともたやすく吹っ飛んでしまった。元々佐々木は良家の出身で、多くの親族が駆け付けた。徳田に焼香の番が回って来た。
「徳田さん」
恵美子が駆け寄る。徳田に掛ける言葉なない。小川の死で油断したのがこの結果となった。
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