都橋探偵事情『舎利』

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「さあ、しっかり、お客さんが見てるよ」  徳田が励ますと頷いて席に戻った。八丈島から戻った中西も通夜に駆け付けた。通夜振る舞いの席で徳田と合流した。 「英二、お前何か知らねえか?」  ビールを煽って中西が訊いた。 「何って何を?」  得意のお惚けである。 「名城の行方だよ、分かってんだろうとぼけやがって。お前が救急車を呼んで駐車場の通路を駆け上がったのを警備員が見ている。名城を追ったんだろう?」 「ああ、だが見失った」  今話すのは時期尚早と考えた。 「中村川の脇の歩道に自転車が放置してあった。ハンドルに名城の指紋が確認出来た。あいつはあそこで自転車を乗り捨てて何処かに逃げた」 「なあ西よ、もし名城が自首していたら刑はどれくらいだろう?」 「そうだなあ、沖縄での伯父や武器密売人の殺人も絡んでいる、それに手榴弾を小川に手渡した。そして佐々木殺しだ。首括るようだろう」 「じゃ死んで正解か」  徳田がビールを飲み干して席を後にした。中西が徳田を追う。 「英二、一杯付き合え」  斎場前でタクシーに乗り込んだ。着いたのは伊勢佐木町の根岸屋である。 「しばらくぶりだ、客が少ないな」  徳田が店内を見回して言った。 「ああ、パンパンは齢食ったし、アメ公もほとんど帰った。やくざは根性なくしたし、土方は豊かになった。もうこの店に集まる理由がなくなったんだ」  中西は布川のボトルを頼んだ。
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