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「俺は八丈島から帰ったばかりだ。小川の実家に行ってきた」
「親族がいるのか?」
「ああ、よく似た弟が一人で暮らしていた。あんな悪党の兄貴でも死は辛いんだろうよ。小川がお守り袋に入れていたのはなんだか分るか?」
「もったいぶらずに話せ」
「テニアン島の洞穴で死んだ母とまだ乳飲み子だった弟の舎利だよ。八丈の弟はそれを皿に開けて、穴が開くほど見つめていた」
「なあ西、誰が悪いんだ、小川なのか、名城なのか、それとも殺された佐々木か米沢の斎藤か?」
「そんなことが分かれば刑事なんてやってねえよ」
中西は二つのロックグラスに並々とウイスキーを注いだ。
「そうだ朗報だ、お前を狙っていた愚連隊が熱海でパクられた。もう道子と英一を戻しても問題ない」
「本当か?」
「嘘ついてもしょうがねえだろう」
徳田は立ち上がりコートを羽織った。ソフトを被り左右に揺らした。
「自転車が見つかった辺りで川を探ってみろ」
「なんだ、英二、お前まさか」
「探偵には探偵の事情がある」
「カッコ付けんじゃねえよこの泣き虫が」
ドアを出ると満月に晒された。
「お兄さん、遊んで行かない」
毛皮のコートを羽織った女が徳田に声を掛けた。
「ああ、悪いが今夜は満月とデートの約束がある」
「時化てんじゃねえよ」
女が川に石ころを投げた。どぶ川に写る満月に穴が開いた。
了
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