都橋探偵事情『舎利』

21/191

66人が本棚に入れています
本棚に追加
/191ページ
「手榴弾だってよ、山形のどん百姓が」  伊勢佐木中央署では米沢の事件で持ち切りだった。課長がテレビを観ながら茶を啜った。 「課長だって岩手出身じゃないですか」 「太平洋側は明るいの、日本海側は暗いの、この違い、分かるかな、分かんねえだろうなあ」  流行の漫談を真似て言った。 「しかしすげえなあ、手榴弾かよ。山形の殺しは格が違うな」  中西が感動している。 「沖縄やくざ顔負けだな」  布川が笑った。 「うちはまだいいのかなあ、ヤッパや拳銃止まりだもんな。ところで課長は手榴弾握ったことありますか?」 「あるさ、いつも携帯してた。俺ん時はもう敗戦まじかで相手をやるときじゃない、自決するためだった。99式手榴弾だ。南方の島や沖縄じゃ玉砕か集団自決だ。相手を殺す火器が仲間殺しに使われた」  相馬課長は当時を想い出していた。米沢東西署から全国に事件の概要がFAXされた。 「おい、真っ黒で見えねえよ」  課長が届いたばかりのFAXに文句を言った。今年から配属になった横田刑事が真っ黒の紙面とにらめっこしている。字を拾い写している。 「もう一回送ってもらえばいいじゃねえか」 「こっちの機械の問題ですよ課長」  インテリの横田が答えた。 「しかし便利になったよな、米沢の機械に差し込んだ紙が横浜に出て来るんだからな。不思議だよな」  機械音痴の中西にみんなが呆れている。 「レモン?」 「なんだレモンて?レモンテーが飲みたくなった」
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

66人が本棚に入れています
本棚に追加