都橋探偵事情『舎利』

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 新聞は全紙を購読している。新聞受けから零れ落ちた二誌が海風に煽られている。徳田は拾い上げてデスクに放り投げた。社会面に米沢の事件が載っている。自殺と他殺の両面から捜査している。ガス爆発の現場から手榴弾の破片が見つかっている。警察は因果関係を調査中とある。被害者は斎藤嗣治48歳、無職とある。徳田は聞き覚えがある、いや見覚えかもしれない。昨日依頼に来た男が書き記した情報を見た。斎藤つぐはる、東北とあった。まさか同一人物であるのか。警察は他殺の線も探っている。ましてや手榴弾の破片とは穏やかではない。依頼人の黒木は早くしなければまた過ちを続けると言っていた。もしかしたらこの事件がそれに該当するのだろうか。徳田は黒木が宿泊している横浜のビジネスホテルに電話を入れた。 「お出掛けになられているようです」 「もう一度掛けてみてください。シャワーとかトイレかもしれない」  フロントからルームへの呼び出しは大概三回から四回で切ってします。10秒ぐらいが適当と考えている。しかし一度目は出ずに二度目で出る癖がある者も多い。自宅電話ならともかく、外出先の安ホテルなら余計に警戒する。 「お出でになりました。繋ぎます」  予想通りだった。 「もしもし黒木です」 「都橋興信所の徳田です。大丈夫ですか?」  徳田は黒木がニュースを観て驚いているかどうかを知りたかった。 「大丈夫とは何でしょうか?」 「いえ、馴染めぬ土地で過ごされているから寝付けないのではないかと心配していました」  徳田はとぼけた。まだ斎藤嗣治の死を知らないようである。唯の同性同名かもしれないが記憶した名前が紙面やテレビニュースで公表されれば気になるものである。
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