都橋探偵事情『舎利』

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「後払いでもいいですか?」 「はい、大晦日までにお願いします」  徳田はその足で山形に向かった。駅で義父宅に電話を入れる。 「これから出張する」 「どこへ?」 「山形の米沢だ。英一はどう?」 「お父さんとべったりだわ。本当の親子みたい」  道子に脅された。早く迎えに来て欲しいサインである。 「正月はうちで三人で過ごそう」 「支度して待ってるわ、きっとよ」 「ああ、お義父さんとお義母さんに宜しく伝えてくれ」  去年のとある依頼でチンピラに狙われる羽目になった。中西のアドバイスで山手の実家に預けてある。そのチンピラは逃走している。徳田一人きりの時に狙われるなら仕方ないが家族でいれば英一や道子を危険に晒す。捕まるまで諦めろと釘を刺されている。  米沢東西署の高橋刑事は爆発現場に来ていた。三沢の米軍基地から火器に詳しい将校が米沢東西署を訪れ米軍の手榴弾であることを証明した。M26手榴弾、通称『レモン』である。 「被害者の生い立ぢは分がったが?」  高橋が合流した佐藤刑事に訊いた。 「妹さ話聞いで来だ」  メモ用紙を見ながら佐藤が語り始めた。 「大正7年さ斎藤嗣治の父、斎藤治夫婦で移住すた。椰子の栽培だ。すぐに嗣治生まれだ」 「奴は兵隊でねのが?」 「はい、当時18歳で飛行場の整備工事さ従事すてだそうだ」
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