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「それで?」
「終戦で捕虜になり21年の12月さ戻ったそうだ」
「それですぐに山形さ戻ったのが?」
「なすて死んでごねがったど兄さ殴られだそうだ。すばらく親戚を盥回しにされで、新聞配達すながら生活すていだ、そんで妹頼ってこごさ入居すたそうだ」
「妹はなすて日本さ戻ったんだ?」
「生れですぐにマラリアさ罹ったそうだ。身体弱えがら親戻すたそうだ」
テニアン生まれのテニアン育ちでは日本に友達はいない。友達がいなければ仲違いもない。誰かに恨みを買われようがない。
「全では島だな」
高橋は独り言のように言った。
「よす、テニアン島への移民調べろ。それど復員兵もだ」
「全部だが?」
「当だり前だ、半分調べで無ぐで、もう半分にあったらどうする?」
爆発で穴が開いた台所の屋根にはブルーシートが掛けられている。風が吹くとパタパタとうるさい。
「高橋班長、課長がすぐに戻るようにどのごどだ」
「こっちは忙すいがらおめが来いど言ってけれ」
「はい」
「いぐがら待ってろ」
本当に返事をしそうな若い警官を待たせた。署に戻ると同期の鑑識課長鈴木が高橋を待ちわびていた。
「酒の誘いならお断りだ。この山解決するまで断づどかがと約束すた。その代わり昨夜は二升空げだ」
高橋は鈴木の酒の誘いと思った。
「おらだって暇じゃねえ。おめと飲むごんだら警察辞めでからだ」
鈴木は言って笑った。
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