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「紳士服屋は近くにあるかね」
年増のフロント係は愛想がない。何も言わずに周辺地図に赤丸をしてカウンターを滑らせた。
「なんか嫌なことでもあったの?彼氏に振られたとか?」
徳田は女の態度に腹が立った。客商売が嫌なら辞めればいい。女は徳田を一瞥してフロントから出て行った。
「お客様、何か失礼でも」
男が来た。
「いや、なんでもない」
徳田はホテルを出た。雪の上を滑る風が頬を刺す。
「徳田様、これをお持ちください」
さっきのフロントが傘を持って来た。
「ありがとう、だが忘れてしまうかもしれない」
「お気になさらないでください、忘れ物が倉庫に束になってございます。それから今夜大雪になるかもしれません。その靴では湿ってしまいますよ」
「ありがとう、紳士服の店に行くから長靴でも買ってこよう」
さっきの女の態度を相殺するつもりかどうか、男は親切をアピールした。もしかして振られた彼氏はこの男かもしれないと徳田は可笑しくなった。
「こっちだよあんにゃ」
赤い提灯の焼き鳥屋に入ると煙草屋の主人が先に席取りをしていてくれた。
「ああどうも」
「いや、郷土史研究ど訊いだもんだがらさ、地図でも広げるがなど思ってテーブル席取っといだ」
店は仕事帰りの客でそれなりに混雑していた。六人掛けのテーブル席を二人で占領するには申し訳ない。
「カウンターでも良かった」
「それがさ、店長におめのこど話すたら是非米沢の発展のだめに協力すたぇど言ってけだ。おい、店長、こっちに来て挨拶すなさい」
先に来ておけばよかったと反省した。
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