都橋探偵事情『舎利』

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「お客様、そろそろ本編の上映となります」  係がご丁寧に知らせに来た。 「ああ、終わるのは何時だね?」 「約二時間の上映ですが」 「短くなることはないよね?」 「はあ」  徳田は半券を見せて二時間後に戻ると外に出た。五番街は冬休みに入った学生達で賑わっていた。サンタに化けた男がパチンコ屋の宣伝をしている。雑踏に眩暈がして吐き気を催した。 「オエッ」  幸橋から帷子川に唾を吐いた。横を通る女子高生が『キャ』と小声を出して徳田から避けた。  三人の制服警官が伊勢佐木町通りを走っている。追われているのは赤シャツにファーラーのフレアズボンを穿いたチンピラである。若葉町のボーリング場で学生を恐喝しているのをたまたま出前に来た蕎麦屋が見つけて通報した。このチンピラ足が速い。松坂屋の手前を左に曲がった。 「左に曲がった」  警官の後ろで大声を出している大きな男がいる。ベージュのトレンチコートを翻して走る。ソフトが飛んだ。 「後で取りに来るから持ってて」  走りながら身体を一周して拾った女に言った。大きな男が制服警官を追い抜いた。チンピラは福富町に入る。連れ込みホテルの入り口からビルの谷間を抜けて清正公通りに出た。チンピラもこの辺りの地理に明るい。しかし追い掛ける大男は鼠の通り道まで心得ている。大男は伊勢佐木中央署の中堅刑事で中西和美35歳。足はチンピラに敵わないが粘りが違う。GMビルの中に入る。通り抜けて福富町仲通り、国際ビルを左に曲がり転んだ。
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