66人が本棚に入れています
本棚に追加
/191ページ
「どうだ?」
「まちがいないさ佐々木少尉だ」
金城と名城は車の中から産業貿易センタービルに入る佐々木幹夫をじっと見つめていた。
「二日連続でここに入るのは取引会社か自分の勤める会社かどちらかだな」
金城が確信した。
「よし、俺が見て来る」
「気を付けろ」
「大丈夫さ、俺達は覚えているけどあいつは記憶にないだろう。だって俺等は5歳のガキだったからな」
名城は金城のタクシーから降りて産業貿易センタービルに入った。11月にオープンしたばかりのビルは盛況だった。あちこちにお祝いの花が掛けられていた。エレベーターで三階を押す。二階は神奈川県パスポートセンターになっている。名城もパスポートを持っていた。それは琉球政府が発行したものである。そのパスポートを持って15の時に伯父の親戚を頼り神奈川県に移住した。今年は本土復帰して三年である。不要になった琉球政府発行のパスポートは破り捨ててしまった。三階の廊下を回る。やはり貿易関係のテナントが多い。『佐々木貿易』曇りガラスの扉に張り付けてある。こういう店には入ったことがない。商いをしている店なら品定めをしながら探ることが出来る。ドアの前で躊躇していると「どうぞ」と若い女から声を掛けられた。
「どうぞ」
笑顔が素敵な子である。名城はその笑顔に釣られて中に入った。部屋の周りにはガラスケースが置かれ中に色々なものが陳列されている。パーテーションで間仕切りされた奥から煙草の煙が上がっている。
「あの、見るだけでもいいですか?」
「もちろんです。うちもオープンして二週間ですからどうぞご自由にご覧下さい。うちで取引している商品です。他にもたくさんあるんですよ。帰りにパンフレットお持ちください」
43歳
最初のコメントを投稿しよう!