都橋探偵事情『舎利』

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「拳銃ならいくらでもあるぞ」 「駄目だ手榴弾で殺す。そうじゃなきゃみんなが浮かばれない」 「分かった、伯父さんに頼んでみる」 「お前が取りに行くのか?」 「ああ、俺が行く」 「気を付けろよ、リュックサックがいい。靴下二重にしてレモンを包め。安全ピンの外れ止めのジャングルクリップが外れなければ安全だ。やっぱり俺も行く、お前ひとりじゃ心配だ」 「ああ、そうしてくれると助かる」  小川に定住先はない。妻と別れてから住所を変更していない。各地を転々として復讐に燃えていた。テニアンの洞穴で自決を命じた佐々木とその手先になっていた斎藤。斎藤の情報を得て米沢に行った。そしてとうとう見つけ出した。佐々木はごみの中に埋もれて暮らしていた。斎藤には妹がいた。週に一度連れだって買い物に行く。毎週水曜日である。妹はごみ屋敷に10分いてすぐに出て行く。小川は妹も一緒に殺すことを考えた。しかし、兄の面倒を看る姿に挫けてしまった。斎藤だけにしよう、斎藤のことを考えるだけで腸が煮えくり返る。そして実行した。斎藤だけがごみを動かさずして家に入れる足場を知っている。他の誰もはごみを動かさなければ玄関に辿り着けない。小川は斎藤の防御でないかと考えた。いずれ狙われるかもしれない、その恐怖から家の周りをごみで囲ったのである。いわば鉄条網である。ごみは金物がほとんどで少し動かすだけでも金属音がする。小川はどうやって音を立てずに浸入するか考えた。一気に踏み込んでもいいが声を上げられると困る。小川はレンタカーを借りてアパートから布団を運んだ。裏は北側でごみの上に雪が積もっている。その上に布団を敷いた。布団が金属の擦れる音を消してくれた。窓にはかぎが掛かっている。深呼吸した。窓ガラスを叩き割る。手を入れて鍵を開けた。侵入した。
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