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「誰だ?」
斎藤の震えた声。声の方向に走る。ごみに躓いて転倒した。包丁を持った斎藤が現れた。小川は立ち上がり包丁を蹴飛ばした。斎藤は台所に逃げる。後ろから羽交い絞めにした。ナイフを首にあてがう。
「静かにしろ」
「金は無い、本当だ」
「ああ知ってる、いい妹を持って幸せだな斎藤さん」
「あんた誰だ、俺を知っているのか?」
「ああ、よく覚えている。と言うかお前のために生きて来た」
床に頭を叩き付けた。二度三度。斎藤は意識朦朧となる。椅子に座らせ予め用意した弔い用の黒いネクタイで手を縛った。椅子ごと立ち上がる斎藤を蹴飛ばした。
「俺が誰だか覚えているか?」
斎藤は叩き付けられて頭から血が噴き出している。その血が目に垂れて視界がぼやけている。
「誰だ?」
「血で見えないのかそれとも忘れてしまったのか?」
斎藤はじっと見つめた。
「おい小川、妹を殺せ。佐々木少尉殿の命令だ」
小川はテニアンでの斎藤の口真似をした。『おい小川』は力が入り高音になっていた。それまで真似た。
「あっ」
斎藤は小川に気付いた。
「小川、許してくれ、全て佐々木中尉の命令なんだ。そうしなきゃぶっ飛ばされたんだ」
「ぶっ飛ばされて済むならそんな楽なことはないだろ。お前は佐々木の手先になり何組もの家族を死に追いやった。玉砕の為なら俺も許せた。しかし佐々木もお前も自分保身のために邪魔者を殺して生き延びたんだ。口をあけろ」
小川はお守り袋から一片の白い塊を出した。
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