都橋探偵事情『舎利』

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「それで米沢から要請が来ている。手榴弾の出先を探している」 「何を期待してるんですか米沢は?」  横田刑事が訊いた。 「新山下の横浜海兵住宅、および根岸住宅に聞き込みに当たって欲しいとのことだ」 「新山下も根岸もベースじゃなくてキャンプです。火器の装備はそれほどでもないと思いますが」  横田が意見した。 「それほどでもないと言うのはゼロじゃない。確率があると言うことだ、分かるかねインテリ君」  中西が諭した。 「そう言うことだ、それじゃ中西、お前が担当で行ってこい、横田を連れて行け」  余計なことを言ってしまった。中西は五歳の時に横浜大空襲を経験している。B29に追い掛けられた。火の無い所を選んで逃げた。助かったのは運でしかない。それが証拠に隣で走っていた男が燃えてしまった。 「俺っすか?海軍ですね新山下は、期待しないでくださいよ、俺米軍嫌いだし、それにあちらさんも村雨橋事件があったばかりだから警察信用していない。あんまり協力的じゃないと思うけどな。よし行こうかインテリ。聞き込みのイロハを伝授しよう」  村雨橋事件とは昭和47年に米軍のベトナムへの戦車輸送を阻止しようと市長、職員も加わった闘争事件である。阻止出来なかった神奈川県警に米軍は苛立った。 「まあ、三年経ったからほとぼりも冷めてるだろ」  課長が他人事のように答えた。 「また課長他人事、帰って来たら一杯奢って下さいよ」  中西は横田を連れて新山下に向かった。
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