都橋探偵事情『舎利』

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「沖縄やくざか、武器がすげえからな。マシンガンや手榴弾使われたんじゃこっちのやくざも対抗出来ねえだろう。まあいいさ、一旦署に戻り課長に報告してこい」 「してこいって先輩は?」 「俺は一杯やって帰る、マイケルに首絞められたからな、跡が残っていねえか?」  襟元を捲り横田に向けた。首にリングを付けたように青くなっている。 「しばらく消えないかもしれませんよ」 「そうだろう、あいつはいいよ真っ黒で目立たねえから。まあしょうがねえさ、ザキでマフラーでも買う。布川班長にはうまいこと言っといてくれ」  中西は産業貿易センタービルの前でタクシーを拾った。 「根岸屋」  運転手は頷いただけ。ラジオからは『クリスマスイブ』が流れている。 「クリスマスか今日は、こっちはクルシミマスだっつうの」  運転手が鼻で笑った。  新聞を見て固まっている。斎藤嗣治48歳、自宅で殺害される。ガス爆発を装っているが手榴弾の爆発による死因と特定。テレビを付けた。チャンネルを回す。手榴弾殺人事件と右上にテロップがあり事件記者が斎藤宅の前でアナウンスしてる。斎藤宅にカメラが回る。 「あっ」  佐々木は声が出た。家の周りはガラクタの山である。佐々木には斎藤の気持ちが分かった。何かに怯えて生きていた。何かとはテニアン島での惨劇である。いずれ玉砕と決めていた洞穴で泣き止まぬ子供等の命を絶った。命を受けて戦い抜けねばならぬ自分達が先に逝っては護るものも護れない。兵の三分の二は既に玉砕している。いずれここにいる市民も犠牲になる、止むを得なかったと。しかし生き延びれば虚しい言い訳に過ぎないと自覚もしていた。斎藤もそう考えていたに違いないだろう。家の周りのガラクタで洞穴代わりにしていたのだろう。じっと籠って、懺悔の気持ちと恐怖と戦いながら生き抜いていた。次に狙われるのは自分だと佐々木は覚悟を決めた。
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