都橋探偵事情『舎利』

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「一歩間違えばおらだも同ず運命だった」 「ああ、ボンクラの言うごど信ずねぐで正解だった」 「おめならどうだ、敵討ぢ考えるが?」  高橋が難しい質問をした。鈴木は窓の外を見ている。小雪が舞っている。 「今晩はクリスマスイブだ、娘夫婦孫ば連れでくる。その答えは明日にすてけろ」  ガサっと屋根から雪が滑り落ちた。雪かきしたガラクタをまた雪化粧した。  警察が引き上げたのは夕方の五時を回っていた。安物のコートを羽織った若い女が事件現場の玄関に向けて花を投げた。手を合わせてブツブツと何か言っている。徳田はその隣に並んで手を合わせ黙祷した。女が先に目を開けた。隣で手を合わせる徳田が目を開けるのをじっと待った。徳田は焦らした。女が動く気配を感じない、徳田の黙祷をじっと待っている。二分ほど徳田は黙祷を続けた。一礼して去ろうとすると女が立っていた。故意に驚いたようにのけ反った。 「失礼しました」  徳田は立ち去ろうとする。 「あのう」  作戦通りである。こっちから声を掛けるとわざとらしい。何もなく立ち去る素振りが安心感を与える。徳田はゆっくりと振り返った。 「私でしょうか?」 「兄のお知り合いでしょうか?」  兄と言うことは斎藤嗣治の妹である。 「はい、テニアンで少し」  もったいぶった。 「あたし、この近くのパブで働いています。兄の話を聞かせてくれませんか?」  徳田は時計を見た。時間がないように装った。
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