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「ところでお兄さんの葬儀の予定は立っていますか?」
「昨日遺体確認に行きました。でも兄の顔が半分なかったんです。足の水虫で兄だと確認しました」
言って洋子は泣いた。徳田の質問には答えてくれなかった。
「明日朝から警察に呼ばれてます。もう全部話したんですけど想い出すことがあれば何でもいいからと刑事さんに言われています。葬儀のことは明日聞いて来ます。やったとしても簡単に済ませます。来てくれますか?」
「ええ、もちろんです。この先のホテル米沢に宿泊しています。302号室です。明日もう一晩延長しましょう」
事務所の電話番号は知らせなかった。いずれインチキ野郎とバレるだろうが小川の情報を掴むまではとぼけなければならない。
「はい、警察の帰りに寄ります」
「葬儀だけどテニアンの仲間を呼んでもいいだろうか、知らせないと私が叱られる。金城、名城、菊池、浅沼、佐々木」
佐々木で顔を上げた。徳田は依頼人からの情報を列挙しただけである。
「佐々木さんをご存知ですか?」
「ええ、兄から上官だったと聞いたことがあります」
「そうですか、それじゃ佐々木さんには知らせてあげたい。どちらにお住まいかご存知でしょうか?」
「横浜らしいです。住所までは」
「電話番号は?」
洋子は首を振った。横浜の佐々木、テニアンから帰国した軍人。情報が薄い。
「兄は電話で佐々木少尉殿と呼んでいました」
少尉ならいくら若くても終戦当時21~22歳。斎藤より五歳は上である。であるとすると現在53~55歳程度。
「今晩は、いらっしゃい」
ママが割り込んで来た。ほろ酔いの様子。
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