都橋探偵事情『舎利』

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「これがそうよ。もう10年前」  ママが差し出したのは履歴書と身元保証人の二部である。 「うちはこれでも株式会社だからね、メインは駅前の不動産屋、お店も四件やってるのよ。あたしは雇われママだけどね。ボーイはレジを打つでしょ。現金商売だからどうしても保証人さんが必要なの」  保証人は佐々木幹夫とある。住所も横浜市西区になっていた。 「もしやこの佐々木さんがさっきお話しされた佐々木少尉ではありませんか?」  洋子はそうかもしれないけど断定は出来ないと言った。徳田は佐々木の情報を暗記した。ママに手帳を覗きされたくないからでる。あらゆる情報を書きまくっている。漫画や地図も記してある。ママに怪しまれたくなかった。徳田は支払いを済ませた。 「警察の帰りにホテルに寄ります」  洋子が見送った。 「お持ちしております。302,フロントに電話をくれればロビーで待っています」  ママが徳田に投げキッスをした。ソフトを左右に揺すって応えた。  アパートの家財を処分している。家財と言っても布団と炬燵だけである。炬燵はごみ置き場に出した。布団は大家に処分してもらうことにした。小川は米沢駅から横浜鶴見に向かった。鶴見の駅でタクシーに乗った。 「お帰り、頑張ったな」  運転手は金城である。 「ああ、まだ手が震えている」  小川は震える手を強く握った。 「名城が沖縄行きのチケットを二枚買った。往復だ。明後日の午後発だ。俺が羽田まで送る」 「いや、三人で集まるのは止めよう。名城にも電車で行くように伝えろ。俺も勝手に行く。用心に越したことはない」  小川は事件前より慎重になっていた。
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