都橋探偵事情『舎利』

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「ああ分かった」 「山下公園の前で降ろしてくれ。誰かに見られているかもしれないからな」 「そんなこと誰も気にしないさ」 「ばか野郎、お前はどうして佐々木を見つけた。偶然だろう。同じことだ、誰かが見ている、その誰かが通じているかもしれない」 「分かったよ。ごめん」  金城は小川の変身ぶりが恐くなった。それだけ神経を集中している証である。 「いいか金城、佐々木をやらなけりゃ終わらない。裏を返せば佐々木をやれば終わりだ。だから失敗は許されない。いいな金城、家族の前でも言葉は慎重に選べ。それから名城と一緒に行動をするのは控えろ。洞穴で殺された仲間の敵討ちだ、それを忘れるな」  山下公園前で下車した。貿易センタービルに入る。辺りを窺いエレベーターで三階を押した。佐々木貿易の前を素通りした。ここで手榴弾を爆発させれば佐々木以外に被害が出てしまう、それは避けたい。小川は階段を下りた。パスポートセンターの控室で時間を潰した。30分ほど経ってからまた三階に上がる。また素通りした。これを三階繰り返した。16:45.パスポートセンターが終了した。最後の一回と決めて三階に上がった。佐々木貿易の前に二人がいる。中年の男と若い女である。店を閉める様子である。ゆっくりと横を通過する。男の右手を見た。女の陰で見えない。小川は素通りして角を曲がりUターンしてまた戻る。二人がエレベーターに向けて歩き出した。擦れ違う。小川は緊張で瞬きが激しい。 「あのう」  女が声を掛けた。このまま逃げては怪しまれる。佐々木なら米沢の事件を知り警戒しているであろう。 「はい」  最少減の言葉しか発しない。余計なことを喋れば必ずボロが出る。 「顔色が真っ青です。ご気分でも悪いの?」  佐々木の娘恵美子が小川を心配した。
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