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「下痢で」
小川は便所を指差して小走りでその場を去った。一瞬だが佐々木の顔を確認した。間違いない。一緒にいたのは金城から聞いた娘だろう。便所を出て階段を駆け下りた。二人は地下駐車場に向かった。乗り込んだのはグレーのクラウン。出口に向かう。ナンバーを記憶した。小川は桜木町駅から竹芝桟橋に向かった。故郷の八丈島には弟がいる。失敗すれば生きているわけにはいかない、今生の別れとなるだろう。万が一の場合を考えて縁切りした方がいい。夜行フェリーの二等客室は混んでいた。東京に出稼ぎに来ていた島民が正月を故郷で過ごすために帰郷する。酒盛りをしながら職場の愚痴を溢し合う顔にも笑顔が溢れていた。
「根岸住宅に行ってくれたか?」
課長に問われた。横田は笑って誤魔化した。
「行ってねえのか、しょうがねえなあ。それで中西は?」
「一人で当たるとこがあると別行動を取りました」
「嘘吐け、根岸屋に行けば今頃飲んだくれて女をかまっているよ」
課長に見透かされていた。
「明日朝一に行って来ます」
「おう頼むぞ」
「それでお願いがあります」
「何だ?」
「僕一人でもいいでしょうか?中西さん忙しいみたいだから」
中西と行けばまた揉めるのは必至。米軍を嫌っているからどうにもならない。任意の調査でこちらがお願いしている立場を理解していない。
「揉めたのか?」
課長も想像がつく。
「少しだけです」
相当揉めたらしい。横田の薄ら笑いで予想出来る。
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