都橋探偵事情『舎利』

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 ドアを開けるとテンプテーションズのナンバーが流れている。時代はロックンロールからソウルに変わった。米兵がホールを占領している。黒人のカップルがペンギン歩きを模したダンスをしている。海兵隊がロボットダンスをしている。その中に中西がいた。ロボットダンスを真似ているがぎごちない。それでも彼等と同化しようと懸命である。布川と目が合った。ロボットダンスのまま近付いた。布川はドアを開けて逃げの体勢に入ったが肩を掴まれた。中西が首を妙な角度にして笑った。ピンと伸ばした腕の掌だけをぶらぶらさせている。腕を組まれてホールの中央まで引き摺られた。腕を組みなおして片方の腕を腰に当てた。そして足を上げた。中西はコザックダンスを始めた。 「せいのう」  布川を誘う。 「先輩、せいのう」  布川も仕方なく足を上げる。そのスピードが速くなる。会場から笑いと拍手が起きた。足が疲れて上がらない。曲が終わりテーブルに着く。 「いい汗掻きましたね」  布川は渋い顔をしている。 「そうだ、紹介しましょう、マイケル、カモン」  ホールにいる大男を指笛で呼んだ。新山下の横浜海兵住宅でやり合ったマイケルを呼び出したのである。 「紹介します。俺の舎弟で海兵隊のマイケル。これは」  布川を指差して紹介を始めた。 「これってことがあるか」 「俺のティーチャー、マイティーチャー。アンダスタンド」 「OKアンダスタンド」  二人は握手した。布川は『これ』には癪に障ったがティーチャーで相殺した。 「先輩、これ見て」  中西はワイシャツを捲り首の青痣を見せた。
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