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「お客さん、どちらまで?」
「南米沢駅」
敢えて米坂線の下り駅を選んだ。米沢駅だと手配が掛かるのを警戒した。
洋子がフロントに行く。男はいない、愛想のない女一人である。
「すいません、302号室の」
そこまで言い掛けたのを高橋が止めた。
「直接部屋さ行ってみんべ」
高橋は警察手帳を翳した。
「302の鍵貸すて欲すい。大ぎな事件の参考人だ」
高橋の言葉に洋子は混乱した。高橋からは少し話が聞きたいから同行させてくれと頼まれただけである。佐藤は既に302号室の前に来て居る。拳銃を抜いている。相手は手榴弾を携帯しているかもしれない。手榴弾で威嚇される前に撃ち殺す以外にない。大惨事になりかねないからだ。
「他の客は?302の上や下の部屋、両隣りの部屋さ客はいるのがね?」
女は宿帳を眺める。警察の問いにも言葉で返事はしない。首を横に振る。
「それはどだな意味だ、いるのがいねのがね?人の命掛がってるんだ、はっきり言え」
高橋は曖昧な女に業を煮やした。そこへフロントの男が戻って来た。
「お疲れ様です」
「時間の無駄だ、302上下左右さ客はいるのが?いっこんだらすぐに非難さしぇろ」
「302のお客様はもうチャックアウトされました」
「何?何時頃だ?」
「15分前です」
「何でそれを早ぐ言わねんだ」
高橋は女を睨みつけた。
「申し訳ありません」
男が代わりに謝罪した。
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