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「お父さんは仕事かな?」
「分からないんです本当に」
「お父さんの仕事は何?」
「個人の貿易商です」
「お店は?」
「山下の産業貿易センタービルです」
「出来たばかりのビルだね、何階?」
「3階です」
「そっちに行ってもいいかな」
中西は部屋内を見回した。隠れている様子はない。
「二人暮らしなのかな?」
「はい」
「失礼だけどお母さんは?」
「五年前に別れました」
「羨ましいや二親が元気なんて、おじさんなんか空襲で二親を無くしてしまった」
中西は慰めのつもりで言った。
「着替えて来ます。会社まで案内します」
佐々木恵美子は自分の部屋に戻った。中西はキッチンから広いリビング、ドアを開けると寝室がある。ベッドが二つ並んでいるがひとつはシートが掛けられている。疑うわけではないがトイレとバスルームも覗いた。
「父は本当に出て行きました」
バスルームから出るところを恵美子に見つかった。
「ごめん、一応仕事だから。タクシー呼ぼうか?」
「いえ、車があります」
地下の駐車場からクラウンで山下に向かう。地下の駐車場に入れて3階の佐々木貿易に入った。恵美子はもしかしたら父親の気が変わり会社に戻ったかもしれないと期待したが外れに終わった。中西は店内をぐるっと人周りした。パーテーションで仕切られた奥にデスクが並んでいる。ひとつのデスクには花柄のプリントやミッキーの文房具が並んでいる。
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