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「これは君の机?」
恵美子が頷いた。
「これがお父さんの?」
「はい、昨日までそこで仕事をしていました」
「昨日までってどういうこと?」
「昨日で店を閉めたんです」
中西は佐々木貿易のパンフレットを手に取り見ている。
「まあ色々な事情があるんだろうけど、頑張っていればいいことあるさ」
中西は営業成績が悪くて店仕舞いをしたのだと思い慰めた。
「違うんです。赤字にはなっていません、黒字ではありませんが。それでもうちはいいんです。父と二人食べて行ければ」
「事情がありそうだね、よかったら教えて、悪いようにはしない。おじさんこう見えても正義の味方で通ってるんだ」
恵美子が微笑んだ。
「それが分からないんです。昨日の昼過ぎに急に店を閉めると言い出したんです」
日常の出来事ではない、一大事が発生した可能性がある。中西は佐々木のデスクの周りをチェックした。
「お母さんや親族にご不幸とか起きていない?」
「ありません。親族とのやり取りは私が担当みたいなものでしたから、父に直接連絡が入ることはありません」
「ちょっといいかな?」
中西は引き出しの取手に手を当てて許可を得た。恵美子が頷いた。父親のデスクも恵美子が片付けをしている。本人より詳しい。
「そこは伝票関係です。そこは新商品のカタログ関係と商品の見本です。そこは取引相手の情報です」
「何だ全部君が管理しているみたいだね」
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