都橋探偵事情『舎利』

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そろそろクライマックス。もう15分を切った。男が立ち上がった。女に何か話しかけた。席取りはしていない。階段を下りて出口に向かう。徳田は尾行した。横浜駅に向かっている。 「西尾ゆかりさんとはどういう関係?」  幸橋の上で声を掛けた。男は驚いて徳田をまじまじと見つめた。 「あんたこそ誰ですか?」  東北訛だった。 「あんまり時間はないんだ、急で驚いたのは分かるが関係だけを知ればそれでいいんだ」 「何であんたに話さなきゃなんねえ」  男が歩き出した。 「彼女を傷つけたくないだけだ」  男は立ち止まり振り返った。 「どういうことです?」 「君と彼女の関係を知りたいだけだ。愛し合っているならこれ以上付きまとうことはしない」 「同級生だよ、13年前に集団就職で出て来た仲だ。同じ電機会社に就職したけど彼女は辞めたんだ。それでこないだばったり会って今日の約束した」 「映画のクライマックスを彼女一人にさせるのは男として心苦しくないのかな」 「しかたねえべ、仕事だ。三交代だからな」  納得がいった。中学の同級生をフカの餌にしてしまうとこだった。 「ありがとう、呼び止めてごめん。幸せに」  徳田は話を聞いて安心した。映画途中で女を置いて行く男は最低だと感じた。情感豊かになるクライマックスで女を支えるのが男の勤めではないか。自分には出来ないがそうあって欲しいと勝手に望んでいる。この男が先に劇場を出たのは次の女と待ち合わせでもしていると徳田の予想は大きく外れた。25万は取り損なったがそれ以上に気分がいい。次の男が悪党なら合田の二代目に知らせよう。  
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