都橋探偵事情『舎利』

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「はい、父はほっとくと全部一緒くたに仕舞うんです」  ごみ箱を見た。新聞が差すように捨ててある。中西はそれを抜いて広げた。社会面トップに米沢の手榴弾殺人事件が掲載されている。 「お父さんは軍人だったのかな?」 「はい、南方の島に言っていたらしいと母に聞いたことがあります」 「どこの島だか分からない?」 「父は過去のことは一切話してくれませんでした。聞くと怒るんです。戦争は帰還と同時にリセットしたんだって」 「リセットね?」  米沢で殺害された斎藤嗣治と関係があるのだろうか。もしかしたらこの記事を読んで閉店を決めたのではないだろうか。 「電話貸してくれる?」  中西は署に電話した。 「課長を呼んで、誰かって?正義の味方だ中西だ」  恵美子が笑った。 「課長、米沢東西署の担当いたでしょ、電話番号教えて」  中西はメモして受話器を置かずに続けて電話を掛けた。 「伊勢佐木中央署の中西と申します。手榴弾殺人事件のことで伺いたいのですが、佐藤刑事か高橋刑事をお願いします」  佐藤は出ていた。高橋が電話口に出た。 「先ほどは失礼しました。伊勢佐木中央署の中西と言います」 「高橋だ。お世話になるっす」  『もすもす』から始まらなくてよかった。笑い出したら止まらなくなる。 「実は指示された佐々木幹夫さんの会社にお邪魔しています。私の隣にはお嬢さんが居りますのでひとつお手柔らかに」  親族がいなければ呼び捨て、それに疑いの念を隠さずに表現してしまう、それを気遣うようお願いした。      
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