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「お嬢さんが?佐々木さんはいねんだね?」
「今朝早く出掛けたそうです。ボストンバッグに日用品を詰めて出たそうです。妙なことに昨日まで営業していた会社を突然閉めて出掛けました」
「それは穏やがんね、何が特別な所用発生すたんだべが?」
「はい、実はごみ箱に新聞が捨ててあり、手榴弾殺人事件の記事が載っていました。佐々木さんはそれを読んで、身元保証人になったことのある被害者斎藤嗣治が殺されたことを知り、店を閉店し出て行かれたんじゃないかと私の想像ですが」
「だどすれば米沢さ来る可能性もあるな」
「はい、充分有り得ると思います。それでひとつお聞きしたいんですが、斎藤嗣治は帰還兵ですか?」
「兵隊ではね。あの男は空港の工事すておったが、戦況悪化で、恐らぐ民間義勇兵どすて軍さ協力すてだど考えられるっす」
「南方ですか?」
「テニアンだ」
サイパンやテニアンの玉砕は中西もよく知っている。軍人が民間人に死を強制したことも後の多くの証言で明らかになっている。その手段に手榴弾を使用していた。
「高橋さん、もしかして?」
「まだ早え、結論付げるど大事見失う。失礼、先輩がら教わった教訓だ」
中西は危うく勇み足を踏むところだった。高橋に諭された。
「被害者はテニアン生まれでテニアンおがり、現在テニアンがらの帰還兵及び民間人ば調査中だがいがんしぇん30年経過すてる。それにそもそも記録そのものが確実でね。としょり連中は帰還隠す風潮がある。民間人は12000人捕虜どなったらすい。軍人は320人程度ど記録にあるが現地で16歳以上は義勇兵どすて動いでる。それも兵員さ加えるど民間人ど軍人の数も変わってくるっす。この全員調べられだらいいが、100どが200どがの漏れがあれば笊さ水がもすれね」
高橋はテニアン島からの帰還調査に行き詰まる苦しい胸の内を吐いた。
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